2013年7月23日火曜日

Forever '80s! 世代文化としてのビデオゲーム

思えば2000年代はずっと80年代リバイバルだった。

最新作ではレイドバックした70年代風のディスコサウンドをフィーチャーしたダフト・パンク。だが、大ヒットした2001年の『ディスカバリー』は、ゼロ年代のダンス・ミュージックを(70年代末の日本のアニメと共に)'80sの世界観に仕立てあげた。ファッションの世界では、短い丈のライダースやキラキラした(昔はスパッツと呼ばれた)レギンスは2000年代中頃には復活。その勢いはとどまることなく、2009年に「キング・オブ・ポップ」のマイケル・ジャクソンが亡くなったことによってさらに加速した。

USオルタナティブ・ロックに傾倒して、着飾らないパンクスたる私にとって、'80sファッションのリバイバルは唾棄すべきものであった。音楽としてもニュー・ウェーブならともかく、マイケル・ジャクソンなんぞはもっての他であったし、インターネット上でのEDMの盛り上がりなどは冷めた目で見ていた。そんな私の気持ちにはお構いなしに'80sリバイバルは2000年代を通してしぶとく生き残ってきた。

だが2010年代に入ると、私も'80sリバイバルがありのように思えてきたのだ。というのは、2010年代の'80sリバイバルは、ただのファッションではないからだ。それはビデオゲームを含む80年代若者文化の再解釈のように感じる。

80年代文化とビデオゲーム

現在の'80sリバイバルが目指すのは、カウンターカルチャー発ヒッピー崩れのライブエイドのようなものとは決定的に異なる。コンピューターテクノロジーの発展によって拡大した電子音楽やヒップホップ、ビデオゲーム、SF映画といったポップカルチャーの再解釈だ。

実際にコンソールゲームが登場したのは、70年代末から80年代初頭だ。Atari 2600が1977年に登場して、今年30周年となる任天堂のファミリーコンピューターは1983年に発売された。ちょうど同じ時代に、ブロンクスの黒人、ヒスパニック、カリビアンたちは安価になったターンテーブルやサンプラーといったテクノロジーを利用して新しい芸術様式を作り上げた。

ロックマンのトラックでパフォーマンスを行うラッパーのMega Ranはインタビューで自分が「ヒップホップとビデオゲームで育った」と語っている。2006年から活動を続ける彼は、カプコンからの正式なライセンスを受け、ゲーム音楽の世界のラッパーとして海外では人気者だ。日本人にとってヒップホップとビデオゲームという組み合わせは異色のものに思える。だが、1977年にフィラデルフィアで生まれたMega Ranにとって、それらは同じ時代に体験したものなのだ。

他方、ロック・ミュージックの流れにもこれらのテクノロジーは影響を及ぼした。パンクからニュー・ウェーブが登場、シンセサイザーの音は特別なものではなくなった。現在では、それらの80年代の電子楽器のサウンドは、ビデオゲームとのつながりの中で使用されることも多い。クラブ・ミュージックにチップチューン的なサウンドが使用されることも珍しくないし、ハードコアパンクとチップチューンが融合した「Nintendocore」というジャンルは2000年代のインターネットで人気を博した。

映画では『スター・ウォーズ』の第一作目が1977年に公開、SFブームを巻き起こした。その後も『エイリアン』(79年)、『E.T.』(82)、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)とSF映画の人気が高まり、テクノロジーの恩恵にあやかったFX技術は80年代の映画の世界の花形だった。また動画だけではなく、エアブラシなどの新しいツールによって描かれたそれらの映画のポスターは80年代のイメージを強く喚起させる。また同時期に一気に商業的に人気を博したヘヴィメタルは、音楽的には保守的なものとして扱われることが多いが、そのファンタジックな世界観やバンドロゴのタイポグラフィは、後の世代のビジュアルイメージにインパクトを与えた。

これらの'80sのビジュアルイメージを音楽と共に再解釈してみせたのがフランスのValerieだ。2007年にブログの形でスタートしたValerieは、これまでエレクトロハウスやシンセポップの音源をリリースしてきた。イラストレーションやデザインを手がけているThe Zondersは、'80sにこだわらないシュールレアリスティックな作風が特徴のデザイン集団だが、Valerieでは徹底して80年代の映画のポスターやヘヴィメタルのバンドロゴからインスピレーションを受けたビジュアルを採用している。

偏執狂とまでも言える'80sリバイバル集団のValerieだが、その美学はニコラス・ウィンディング・レフン監督の映画『ドライブ』(2011)にも引き継がれた。バイオレンスとロマンスが入り交じる個性的な映画だが、主演を演じるライアン・ゴズリングは劇中歌で示されるようにスカジャンを着た80年代の「真のヒーロー」であるのだ。

そして、この『ドライブ』にインスピレーションを受けたのが、昨年のインディーゲームシーンで大絶賛された『Hotline Miami』なのだ。1989年のマイアミを舞台にデロリアンで移動するマスクをかぶった主人公のファッションもジーンズにスタジャンだ。ゲームのビジュアルも80年末から90年代にかけてのアーケード風。一見レトロにも思えるが、実際には非常にスタイリッシュで斬新なビジュアルだ。

このように現在の'80sリバイバルにとってビデオゲームは重要なアイテムだ。というのも、60年代、70年代の若者文化と80年代のそれを決定的に分けるのがビデオゲームであるからだ。そのため、80年代を強く打ち出しているフレンチ・ハウスのアーティストが先日、ビデオゲームをリリースしたのもそれほど驚くことではなかった。

1986年にフェラーリ・テスタロッサのドライブ中に交通事故で死亡、ゾンビとなって2006年に復活したという「設定」のもとに活躍するKavinsky。彼の音楽はその馬鹿げた設定と同様、明らかにダフト・パンクの流れを組んでいるわけだが、ファッションはやはりスタジャンにジーンズ、そしてサングラス。ゲームはあくまでもアーティスト活動の一環であるため、内容はそれほどゴージャスではない。だが、ベルトスクロール風のアクションとテスタロッサのカーアクションは十分に80年代から90年代にかけてのビデオゲームの世界観を反映している。

もちろん時代の流行は地域によって異なっている。だが、ビデオゲームは映画や音楽といった80年代文化と共に先進国の中流家庭に流れ込み、当時の少年少女たちの子供時代を形成してきたのだ。そのため、成長して大人になった彼らが80年代に特別な思い入れを抱き、そこから新たなゲームを制作する可能性は大いにありうる。

ビデオゲームは、2000年代の'80sリバイバルを通して確実にユースカルチャーとしての地位を獲得しつつある。だが、ビデオゲームにとっての'80sリバイバルはまだまだこれからだ。もっと再評価されるべきビデオゲームのビジュアル、デザイン、音楽、そして世界観があるのだ。2000年代の'80sリバイバルにはいまいち乗れなかった私だが、2010年代の'80sリバイバルがビデオゲームを正当に評価するなら諸手を挙げて賛成しよう。そうだ、ビデオゲームが評価されるならば、後10年、'80sリバイバルを続けても良い。Forever '80s! Forever videogames!