2013年7月8日月曜日

スクウェア・エニックスの方針転換と日本のPCゲームの行方

早くも2013年の折り返しの時期がやってきた。GDCやE3といった海外の大規模なイベントを終え、日本のゲーム業界はCEDECや東京ゲームショウがひかえる下半期に突入しようとしている。今年は次世代ハードが登場するということで、ゲームに関するニュースは業界外からも注目されている。

私個人としては次世代ハードにはそれほど興味がない。というのも、現在のビデオゲームの技術は一定の水準まで到達しているため、その技術の範囲内で可能な表現を模索することに重点が置かれていると思うからだ。音楽産業がその再生装置よりもコンテンツの内容にシフトしていった時代のように、ゲーム産業はコンテンツビジネス、エンターテイメントビジネスとしての比重を強めつつあると思われる。

そのような観点からは、次世代ハードの発表以上に衝撃的だったのは、スクウェア・エニックスが『ドラゴンクエストX』のWindows版のリリースに踏み切ったことだ。現在はβテスト中であり、2013年9月26日に正式にサービス開始予定だ。

昨年、Wii版がリリースされた本作は、シリーズ初のオンラインゲームということでファンからも賛否両論あった。ソフトの売り上げは、過去のナンバリングタイトルと比べると低調だが、月額利用料金があるため、単純な比較は成り立たない。最終的な利益もオンラインゲームである以上、まだまだ予想できないが、今回のWindows版のリリースでユーザー規模自体は広がると見込まれる。

脱コンソール化するスクウェア・エニックス

このスクウェア・エニックスのPCプラットフォームでの展開は、同社の経営不振を考えると当然の措置とも思える。2013年3月期に旧エニックスとスクウェアの合併後のはじめての営業赤字。6月にはその責任を取る形で和田洋一社長が退任している。

この業績悪化における「戦犯」は、買収した英アイドスからの新作『ヒットマン』や『トゥームレイダー』の販売不振とされている。カナダのユナイテッド・フロント・ゲームズと共同開発した『スリーピングドッグス』なども含めて、スクウェア・エニックスの経営不振は、海外向けのビッグバジェットタイトルに責任が押し付けられている。そのため、これらの経営陣の退任後、同社が抱える各地のスタジオのリーダーを変更して、AAAタイトルからモバイルゲームに焦点をシフトしているという報道がなされていることも不思議ではない。

では、スクウェア・エニックスは今後、モバイルに特化した戦略を取るかといえばそうではないだろう。『ドラゴンクエストX』の展開以前に、5月には『ファイナルファンタジーⅦ』のWindows版をリリースしていることから分かる通り、同社の戦略はおそらく脱コンソールというものだろう。

もちろん、次世代ハードに向けては、ファイナルファンタジーやキングダムハーツといった同社の人気シリーズの他、アイドスのステルスゲームクラシック『Thief』の最新作のリリースを予定している。だが、PS4とXbox Oneといった次世代機の構成上、これらのタイトルがPCプラットフォームにもリリースされるのは当然の流れであり、今後、スクウェア・エニックスのタイトルの多くがPCやモバイルといった汎用機でプレイ可能になることが予測される。

日本に向けるPCプラットフォームの問題

とはいえ、これまでのスクウェア・エニックスによる国内のPCプラットフォームに対するアプローチは問題含みであった。『Deus Ex: Human Revolution』のリージョンロック問題、『ヒットマン』、『トゥームレイダー』で相次いだ日本語バージョンのロック問題。これらのやり方に多くのゲーマーは不信感を示し、スクウェア・エニックスがユーザーにこれらのタイトルのコンソール版を購入させること、もしくはコンソール版と同じ値段を払うことを強要してきたように思えてならない。

ただしこれらはスクウェア・エニックスに限ったことではない。PCゲームの一大プラットフォームであるSteamの日本ユーザーにはよく知られた言葉として「おま国」がある。いわゆる「お前の国には売ってやんねーよ」の略であり、様々な形のリージョン規制である。もちろん、リージョン規制自体は古くからコンソールにも存在してきた。だが、インターネットでつながったPCという最もオープンなプラットフォームで、そのような規制を行うことはユーザーからは非常に不自然に見える。

さらにそもそも日本においてはPCでゲームをやる文化が根付いていない。それらは80年代からの日本のゲーム産業を支えてきたコンソールの高い普及率の結果ではある。しかしながら、現状のゲーム産業を考慮すると、「イノベーションのジレンマ」に陥っているようにすら思える。

もちろん、日本人の多くはPCに慣れ親しんでいる。しかし、彼らにとってのPCは主にオフィスワークのためのデバイスであり、エンターテイメントは二の次である。国内に小規模なゲーム市場を持つWindowsならまだしも、Macユーザーの中には「Macではゲームができない」と思い込んでいる人は未だに多い。このような状況でビデオゲームの潜在的なユーザーをコンソールに囲い込むような戦略は、どう考えても裏目に出るだろう。

だが、こういった状況も時間とともに変化する。特に今回、スクウェア・エニックスはドラゴンクエストやファイナルファンタジーといった国民的ゲームをPCプラットフォームへ向けて展開してきたわけだ。これを機に多くの日本人が自身のPCでビデオゲームが遊べることに気づくと思われる。願わくば、スクウェア・エニックスにはユーザーにデメリットを強いるようなリージョン規制をやめ、他の日本のパブリッシャーがPCプラットフォームに目を向けるような活躍を期待している。