2013年6月19日水曜日

PlayStation Mobileのという新しいプラットフォームとその行方

E3が無事に終わり、次世代のハード、ローンチタイトルなどが明らかになってきた。私はどちらかといえば、Xbox Oneにせよ、PS4にせよ、ハードやソフトよりもそのサービスに興味がある。大方の予想通り、Xbox Oneはホームエンターテイメントのハブ、PS4はよりゲーマー志向の専用機であることはほぼ確定だろう。

どちらのハードにせよ、その成功はネットワーク上のサービスをどう展開していくかにかかっていると思う。ゲームコンソールはこれまで製品をリリースした後は、主にデベロッパーとのやりとりが重視されていた。だが、これからは「サービス事業者」としての意識を持ってエンドユーザーの顧客満足度を向上させることが必要だ。つまり、これからの戦いの舞台は、Xbox OneとPS4という単なるハードウェアだけにはとどまらず、Xbox LiveとPSNというオンラインサービスにもあるというわけだ。

双方ともプレイ動画のストリーミングなど新しい機能を投入してきているが、微妙な方針の違いがある。Xbox OneがXbox Liveアーケードのゲームを切り離す一方、PS4には後方互換性はないものの、SCEには「すべてのプレイステーションのコンテンツの互換性をクラウドで実現する」という長期的な目標があるとされる。この「長期的な目標」がどの程度まで実現可能かはさておき、この面でMicrosoftとSCEの間には長期的な戦略の違いが見られるように思われる。

Microsoftは、ゲーマーからノンゲーマーまでXbox LiveのコンテンツをXbox Oneで楽しんでもらうことを想定しているのに対して、SCEは「プレイステーション」という大規模なサービスの一部としてゲーマー向けのハードウェアであるPS4 を位置づけているように思える。

そのようなSCEのクラウドサービスとしてのPlayStationという方向性は、2012年の7月にGaikaiを買収したときにある程度、決まっていたようだ。その後、Gaikaiの技術が具体的にどのように活かされているのかは明らかではないが、PS4のいくつかの機能に活かされているらしい。ともかく、SCEの方針としてクラウドゲーミングという方向性があるのは間違いない。

そして、オンラインが前提としたマルチプラットフォーム対応のクラウドゲーミングとは別な技術だが、現在、SCEが展開している中で、それに近い試みとしてPlayStation Mobile(以下、PSM)があげられる。

そもそもPSMとは何か?

一体、PSMについてどの程度、知られているだろうか?正直なところ、ゲーム業界に従事している人以外でPSMについて言及している人は見たことがない。メインのハードウェアがPS Vitaの普及度がまだまだであるため、PSMの存在自体まだまだ知られていないようだ。

もともとはPlayStation Suiteという名前で始まったこのプロジェクトは、様々な端末で「PlayStationの世界」を楽しめるようにするのが目的だ。PSMは現在のところ、PS Vita及び、PlayStation Certifiedという認証のあるAndroidデバイスでサービスが開始されている。有料のダウンロード型ゲームがメインであるが、ゲーム以外のアプリの配信も可能だ。現在、順調に配信タイトルを増やしているとは聞くが、PS Vitaの普及がまだまだであるため、知名度も開発者もコンテンツも少ないのが現状だ。

新規プラットフォームにおけるコンテンツ不足というのは、必然的な現象だ。SCEはPS4でもPSMでも、このプラットフォームの立ち上げ時のコンテンツ不足に対して、インディーデベロッパーを呼び込むという戦略を行なっているように思われる。もちろん、以前に書いたようにプラットフォーム立ち上げ時のクリエイター発掘という方向性は、「ゲームやろうぜ!」や「PlayStation C.A.M.P!」に見られるようにSCEのコンテンツ戦略の十八番ともいえる。

実際に、インタビューにおいてSCEJシニアバイスプレジデントの桐田富和氏は「ゲームやろうぜ!」に言及しながら、PSMがクリエイター育成のためのエコシステムであることを強調している。とはいえ、PS Vitaの普及率の低さや年間7980円かかるパブリッシャーライセンスがネックとなり、これまでインディーデベロッパーにとってPSMというプラットフォームがそれほど魅力的には思えなかった。

だがSCE側もそれらの問題を認識したのか、期間限定のパブリッシャーライセンスの無償化、インディーデベロッパーとの積極的なコミュニケーションを打ち出してきている。さらに、MicrosoftがXbox Oneにおいて、インディーゲームを含めてこれまでのXbox Live向けのコンテンツを切り離し、開発環境であったXNAを終了したことも手伝い、インディーデベロッパーにとってにわかにPSMは魅力的なプラットフォームとして浮上している。

インディーデベロッパーから見たXNAとPSMの比較については、先日行われたIGDA日本のSIG-Indie(同人・インディーゲーム部会)における佐川氏の報告を記事を参照して欲しい。開発環境としてのPSMはまだまだ未開拓な部分が多いが、アプリの審査や卸売という販売方法などはインディーデベロッパーにフレンドリーな部分が多いといえる。

またこの勉強会では、パブリッシャーライセンスの無料期間の延長の可能性、インディーデベロッパーのためのイベントの開催予定など、SCE側はインディーゲームに積極的な姿勢を示している。PSMが2000年代後半にXNAやXbox Liveインディーズが担った役割を果たす可能性も少なくないだろう。個人的にもPlayStationというプラットフォームに対する興味は高くなり、今後も注目していきたい。

一方で、現状のPSMが抱える重要な問題点も浮き上がってきた。それはPSMが目指すものが、クラウドゲーミングのようなマルチプラットフォームなのか、クリエイター発掘のためのオープンプラットフォームなのか、いまいちはっきりしないことである。これは先ほどの桐田富和氏のインタビューにも表れており、一方ではクリエイター発掘を謳い、他方では多様な端末で同一のコンテンツを楽しむことを目指している。

しかしながら、SIG-Indieに参加した開発者たちの多くは、Androidで自分の制作したゲームが動くことよりも、PS Vitaで動くことを重視している。開発者としては多種多様なAndroid端末への対応を求められるよりも、最新スペックの専用機で自分のゲームが動くことの方が魅力的なのだろう。他方、SCE側としては様々な端末で「PlayStationの世界」を楽しんでもらい、プラットフォームとして拡大することを望んでいるのであろう。

もちろん、様々な端末に対応することとクリエイター発掘が両立しないわけではない。とはいえ、多様なAndroid端末への対応に追われ、ゲーム開発や流通のプラットフォームとしての魅力が下がるようなことだけは避けてほしいところだ。そのためには、多様なデバイスへの対応というクラウドゲーミング的な方向性とクリエイター発掘という方向性のどちらに重点を置くかをはっきりさせることが肝心になってくるだろう。