2013年2月7日木曜日

90年代のJ文化とニッチ市場のJRPG

90年代のJ文化

90年代からゼロ年代にかけて日本のサブカルチャーは、日増しにドメスティックな傾向をもつようになった。洋楽を聴く若者は減り、映画や文学などの海外文化に興味を持つ人間は非常にマイノリティになっていったのである。そして、海外文化の後退と共に登場してきた言葉は「J-POP」や「J文学」といった一連の「J」である。

それらの用語の一部は忘れられ、一部はありふれたものになった。対照的にマンガやアニメ、そしてゲームといった日本が独自に発展させた既存のコンテンツ産業には「J」の字が付されることがなかった。要するにマンガやアニメは「日本のモノ」であることは当たり前であるため、わざわざ「Jマンガ」や「Jアニメ」と呼ぶ必要はなかったのである。

しかし、例外はある。「JRPG」だ。

一連の「J」と同様、JRPGも場合によっては蔑称であり、場合によってはニュートラルなジャンルであり、場合によっては誇るものでもある。しかしながら、「JRPG」の興味深い点は、この言葉が「J-POP」や「J文学」などの一連の「J」より遅く普及したことである。つまり、以前なら「RPG」はマンガやアニメと同様に「日本のモノ」であることは当たり前であると、多くの日本人は思っていたのだ!対照的に「JRPG」という用語の普及は、「本来のRPGと日本のRPGが異なる」という認識が日本のゲーマーにも芽生え始めたことを意味する。

ニッチ市場で活躍するJRPG

JRPGとは何か?ゲーマーが2人以上いると、これを議論するだけで夜が明けてしまう。歴史的な特徴としては、日本においてはその起源となるテーブルトークRPG(これも実は和製英語であり、英語ではTabletop role-playing gameなどと呼ばれる)が十分に紹介される前に、ビデオゲームのRPGが一大ジャンルを築いてしまったことが大きい。アナログのRPGから現在のオープンワールド系RPGの流れを、「歴史の正統な進化」として捉えてしまうと、「JRPG」は確かに位置付けの難しい異端であり、傍流になってしまうだろう。

しかしながら、そのような捉え方は現在のコンピュータRPGの源流をテーブルトークRPGに求めようとする歴史観にすぎない。実際に英語版のWikipediaでは、「History of Western role-playing video games」と「History of Eastern role-playing video games」という二項目によってそれぞれの歴史が説明されている。

JRPGはアニメ的なビジュアル、若者(子ども)が世界を救うというリアリティのないストーリー、ダイナミックさに欠けるターン制バトルといった点から批判されることも多い。だが、逆に西洋のRPGもストーリーの希薄さ、一面的なキャラクター、シームレスなバトルシステムによりテーブルトークRPGにあった戦略性の喪失などが批判され、海外にも根強くJRPGのファンや擁護者も多い。

実際のところ両者の美学や価値観の差は、コンソール機天国であった日本のRPGと、PCを中心として進化した西洋のRPGという風にプラットフォームによる影響が大きい。現在はコンソール機の性能がPCに迫ってきたため、PCを中心として成立した西洋RPGがゲーム市場の覇権を握っている。そのため、JRPGはどちらかといえば日陰者、ないしは日本のゲーム文化が産んだ私生児として扱われがちである。

だが実際は、それは高機能のコンソール機でリリースされるAAAタイトルに限ったことである。携帯型ゲーム機やスマートフォンやフィーチャーフォン、さらにPCプラットフォームにおけるインディーゲームなどに目を向ければJRPGはまだまだ人気があり、新作も豊富である。オープンワールド系の西洋RPGがグローバル市場を席巻していたとしても、JRPGはニッチな市場において今なお活躍しているのである。

特に昨今のインディーゲームの中には、日本のゲームで育ったクリエイターの個性が強く発揮された「海外産JRPG」が目立ってきている。そこで今回のコラムでは、最後にクラウドファンディングのKickstarter中から特にJRPGの要素を強調しているプロジェクトを紹介したい。

Kickstarterにおける期待の海外産JRPGプロジェクト

Rival Threads : Last Class Heroes
『Rival Threads : Last Class Heroes』はStudio Kontrabidaによるサイドスクロール形式のRPGだ。現在、Androidをベースとしたコンソール機のOUYA他、スマートフォンやPC向けに開発している。もともとiOS向けでリリースされたゲームの続編として企画されたもので、Kickstarterでは目標金額の5000ドルを大幅に突破して、2万ドルの資金調達を達成している。

動画やアートワークを見ていただければ分かるように、2Dのビジュアルを強く意識したサイドビューのゲームは現在のRPGとしては非常に珍しいもの。学園を舞台にマリオネットを操り、バトルを行なうという世界観はおそらくアトラスの人気シリーズ「ペルソナ」の影響を強く感じさせる。Studio Kontrabidaは複数の国にまたがるスタッフのインディー・デベロッパーであり、まだ主要な実績はないもの、本企画で海外のゲームメディアを賑わせている。

Vacant Sky: Awakening - A Pre-Apocalyptic RPG
『Vacant Sky』はRPGツクールで制作されたインディーゲームのシリーズ作品だ。日本でも人気が高いRPGツクールだが、海外ではRPG Makerの名前で有名でアマチュアからインディー・デベロッパーまで広く利用されている。既にリリースされている『Act I』と『Act II』は無料で公開しており、筆者も少しプレイしてみたが、ダークな世界観といわゆる「厨二病」的設定からはJRPGの匂いがプンプンする。

今回のKickstarterのプロジェクトでは、TRPG的な要素を取り込んでいるが、彼らもまた日本のペルソナシリーズの影響を受けていると認めている。目標金額の8000ドルを上回る1万4000ドルの資金調達に成功している。彼らもまた英米を横断する国際的なプロジェクトであり、アマチュアのゲーム制作から出発して、Kickstarterを通して商業作品に挑戦している。本作もPCを含むマルチプラットフォームでリリースを予定している。

CRYAMORE!
『CRYAMORE!』はスチームパンクの要素を取り入れたアクションRPGのプロジェクト。現在、Kickstarterで出資をつのるキャンペーンを行なっており、目標金額は6万ドルと上であげた作品と一桁違った大きめのプロジェクトだ。だが、もう既に10万ドルを超える資金調達に成功しており、後はどれだけの追加目標額に達するかが楽しみである。(11万7000ドル到達で日本語版がリリースされると知って、私はたったいま120ドルのコースに出資してしまった。)

それもそのはず、本作のスタッフはすでにゲーム業界で活躍してきたプロであり、有名どころではUbisoftの『Scott Pilgrim: The Game』やインディー格闘ゲーム『Skullgirls』(ようやく日本での配信が決定されたようだ)などでアニメーターをつとめたKinukoことMariel Cartwrightや、カナダでマンガやアートブックを出版するUDON EntertainmentのスタッフであるイラストレーターのRob Porterなどが参加している。

ゲームの内容はアニメーション付きの動画を見ると分かる通り、ゼルダの伝説や聖剣伝説など日本の作品に大きく影響を受けたトップビュー型のアクションRPG。キャラクターもアニメ的デザインだが、ディズニー的なテイストもミックスされており、非常に魅力的な和洋折衷なものに仕上がっている。現在も出資者を募集しているため、気になる方は出資してみると良いだろう。

以上のようにインディーゲームのようなニッチ市場では、まだまだJRPGの人気は高く、決してその文化は衰えていない。2Dドット絵の表現も実際には様々な形で進化しており(これについてはまた書きたい)、決してレトロスペクティブな意味だけでこれらのゲームが制作されていないことを強調しておきたい。

日本人である私にとっての目下の問題は、これらのプロジェクトを支援したくても、日本語版のリリースはほとんど見込めないことだ。海外で盛り上がるJRPGが日本のゲーマーに届かないことは非常に残念であり、今後のローカライズに期待したい。

以下、JRPGについて興味深いコラムのリンクを貼っておく。

【コラム】それでもターン制JRPGが好き http://www.choke-point.com/?p=12701

JRPGとは何か http://iwatam-server.sakura.ne.jp/book/export/html/616