2013年1月28日月曜日

インディーデベロッパーに焦点を合わせる国内ミドルウェア

年明け1月10日にCRI・ミドルウェアは、ゲーム開発のオーディオシステム「CRI ADX2」のインディーデベロッパー向けの無償版をリリースした。「ADX2」は国内外でデファクトスタンダードとなっているゲーム開発ミドルウェアである。インディーデベロッパー向けパッケージ「ADX2 LE」もプロ向けと完全に同じ機能のオーサリングツールを備え、多彩なサウンド演出が可能になる。

このようなゲームエンジン/ミドルウェアがインディーデベロッパー向けに無償化される流れは、急成長を続けてるUnityや「Unreal Engine3」のインディー向けパッケージ「Unreal Development Kit」など主に海外から始まった現象である。その狙いは様々あるだろうが、基本的にはインディーデベロッパーにツールを流布させることで、ユーザー・コミュニティを育てることが重要なポイントだ。

ユーザー数が多ければ、ゲーム開発のノウハウを互いに共有することも可能であり、ツールが1つのプラットフォームとして拡大していく。いわゆる「ネットワーク外部性」が効果を発揮し、ミドルウェア提供会社はそのユーザーの規模を利用して、一部の機能を有料化するなり、特別なサポートを行うなり、フリーミアムのビジネスモデルを採用することが可能になっていくのだ。 

興味深い点は、これら海外のゲームエンジンだけではなく、冒頭のCRIのニュースのように国内のミドルウェア提供会社もまた「インディーデベロッパー」に焦点を当てていることである。一昔前ではゲーム開発を行なうにはコーディング、グラフィック、サウンドなど多様なスキルが必須であった。だが、これらのミドルウェアを利用することで個人や小規模なゲーム開発が格段に容易になったのだ。

もちろん、これらの商用ミドルウェア以外にも、日本のPC文化には様々なフリーやシェアのツール、ライブラリが公開され、フリーゲームや同人ゲーム開発に大きな影響を与えてきた。しかしながら、ゲーム業界においてデファクトとなるツールを利用することで、クリエイターはアマチュア時代やスタートアップに培ったノウハウをその後のキャリアにも活かせるというメリットがある。

つまり、これらの国内ミドルウェアがインディーデベロッパーに焦点を合わせるという潮流は、大きく捉えるならば、日本のゲーム産業を活性化させようという強い意志によって動かされている。海外のインディーゲームが盛り上がりを見せ、産業としての存在感を感じさせる規模になってきたのは、やはり制作環境の向上によるものが大きい。今後のインディーゲーム、そして日本のゲーム産業全体の発展を願う意味を込めて、ここでは国産のミドルウェアについて簡単に紹介したいと思う。

伝統あるツクールシリーズの再生

「ミドルウェア」というべきかどうかはともかく、おそらく国産のゲーム開発ツールとして最古であり、現在まで開発が続けられているものとしては「ツクールシリーズ」がある。最初期のバージョンは、アスキーが1990年に発売したMSX2用『RPGコンストラクションツール Dante』まで遡る。現在はエンターブレインが開発と発売を行なっており、RPG以外にもアクションゲーム制作のためのツールや画像素材などを提供している。

日本のホビーパソコン規格MSXのために作られたことから分かる通り、ツクールシリーズは基本的にアマチュアのゲーム制作用のツールだ。そのため、機能は限られている分、製品自体は非常に安価。現在でも多くのアマチュア・クリエイターたちが作品を作っている。私自身もこれまで何本もの「ツクールゲーム」をプレイしてきたが、限られたリソースの中で創意工夫を行なう素晴らしいクリエイターは多い。

アマチュア向けと思われているツクールシリーズであっても、商用利用自体は可能である。日本においては、どうしても「ツクールゲーム=フリーゲーム」という認識が強く、「ツクールの世界からインディーデベロッパーに」という話はほとんど聞かない。しかしながら、Playismでも配信されているききやま氏の『ゆめにっき』、昨今、同人業界で話題になったkouri氏の『Ib』など国内外から注目される作品も存在する。(これらの作品がRPGツクールを利用しながらも実際はアドベンチャーゲームであることは注目に値する。昨今の海外インディーゲームシーンでも、アドベンチャーゲームに対する再評価は高く、インディペンデントなクリエイターの美学は地下水脈でつながっているようだ。)

もちろん、RPGツクールシリーズで制作されるゲームはグラフィックの面でもシステムの面でも制約が多い。しかしながら、レトロな2Dグラフィックであるドット絵(pixel art)を逆手に取った表現も可能であり、海外インディーゲームでは『To the Moon』のような傑作も生まれている。海外では「RPG Maker」という名前で知られ、『To the Moon』以外にもインディーデベロッパーの商業作品にも利用されている。

過去には音楽制作やグラフィックのためのツールも提供していた本シリーズ。歴史が古いだけあって、プラットフォームによってはツールの互換性がない、マルチプラットフォームには対応していないなどの問題もある。しかし、ゲームのミドルウェアがインディーデベロッパーに開放されつつある今、日本のホビーパソコン文化に根ざしたツクールの世界はアマチュアのゲーム制作の歴史として十分に再検討の余地がある。

精力的に同人ゲームを盛りたてるマッチロック

国内のミドルウェア提供会社の中では、CRIに先んじてマッチロック社が2011年にインディーデベロッパー向けの3Dエフェクトツール「BISHAMON Personal」をリリースしている。「BISHAMON」自体はシリコンスタジオが提供するプロユースのエフェクトツールだ。

「BISHAMON Personal」は「ADX2 LE」と異なり、無償版というわけではないが、プロユースのツールをインディーデベロッパーに向けて格安で提供している。さらに、前年度の年商1000万円未満なら商用利用も可能であり、Windowsは当然、iOSやXbox360で再生するためのSDKも格安で提供している。

「エフェクト」はゲーム開発において重要な演出部分ではあるが、個人や小規模なデベロッパーでは後手後手に周り、プログラマーやグラフィッカーが片手間に制作することも多いという。画像素材を組み合わせることで制作すること自体は比較的簡単ではあるが、ゲームの動的な要素であるため、最終的なチューニングにはトライ・アンド・エラーを重ねる必要がある。そのため、リッチな演出のゲーム制作には「BISHAMON Personal」のようなプロユースのツールは非常に効果を発揮するのである。

またマッチロック社は、このようにインディーデベロッパー向けのバージョンをリリースするだけではなく、国内のインディーデベロッパーや同人サークルを盛り上げる活動を行なっている。ユーザー向けのセミナーを行なうのはもちろんのこと、2012年のCEDECの展示では同人ゲームのデモを流すなどの取り組みを行なっている。また「BISHAMON Personal」を使用した賞金付きの「ゲームエフェクトコンテスト」を開催するなど、その意欲的な姿勢には驚かされる。

また国内の同人ゲームの開発者たちも、それらのマッチロック社の姿勢に応えるように、「THE GAME EFFECT」という合同誌をリリースしている。ベテランの同人サークルD.N.A.Softwaresが中心となり、同人サークルのクリエイターたちがそのノウハウを同人誌の形で共有する姿には、日本の草の根ゲーム開発コミュニティのバイタリティーを感じる。ミドルウェア提供会社のサポートを得つつ、インディーデベロッパーがこうしたボトムアップな活動を行なうのは、クリエイティブな産業の理想的な形のひとつではないかと思う。

2Dグラフィックに特化するウェブテクノロジのツール

インディーデベロッパー向けのパッケージはないが、ウェブテクノロジ社の「SpriteStudio」は個人でも購入可能な価格の2Dに特化したアニメーション制作ツールだ。スマートフォンも含めたマルチプラットフォームに対応しており、ソーシャルゲームからシューティングゲームまでに幅広く利用されいる。

筆者は昨年のCEDECでまもなく発売される次期「SpriteStudio」のセッションを取材しているが、予想以上に参加者が多く、「2Dアニメーションツール」に対する期待を感じた。言うまでもないが、日本人は世界でも類を見ない2Dグラフィック好きである。そのため「SpriteStudio」のようなツールの需要は高く、また手軽に作成できるため、今後のインディーデベロッパーにも受け入れられる可能性は非常に高い。

また同社が開発したマンガ作成ソフト「コミPo!」は、3Dモデルに様々な属性を付与して2Dのキャラクター画像を作成することが可能だ。基本的にはモデルのポージング、コマ割り、フキダシなどを設定して誰でも気軽にマンガを書くためのソフトだが、ゲーム用のキャラクター・グラフィックとしても利用可能。非常に安価であるため、絵に自身がなくてもノベルゲームの立ち絵などなら簡単に作れる。

ゲーム開発人口の増加を望む国内ゲーム業界

ここでは紹介しきれなかったが、他にもインディーデベロッパーや個人が利用可能なツールやミドルウェアは様々ある。HTML5とJavaScriptライブラリを利用した「enchant.js」は、ユビキタスエンターテインメントが提供する無料のオープンソース・フレームワークだ。また「吉里吉里」や「NScripter」といった日本のノベルゲーム文化を築き上げた優れたフリーソフトがある。(ゲームエンジンとノベルゲームのグローバル化についてはまた別の機会に紹介したい。)

これらのツールやミドルウェアはアマチュア向けのライトなものからプロユースの多機能製品まで様々ではあるが、いずれにせよ、ゲーム開発の楽しみを感じさせ、開発者人口の増加に手を貸していることは間違いない。また昨年、WiiUをリリースした任天堂がUnityとグローバルライセンスの契約を結んだことから分かるように、ゲーム業界全体が開発者人口の拡大を望んでいるのだ。

原稿を書いているたった今、全世界では「グルーバルゲームジャム」と呼ばれるイベントが行われている。そこではたった48時間という限られた時間の中で、開発者たちがロック・バンドのセッションのようにゲームの開発を行なっている。このようなイベントに対しても、ゲームエンジンやミドルウェアといった開発ツールが与える恩恵は大きい。そして実際に、国内のミドルウェア提供会社も協賛を行なっているのだ。

もちろん、企業であるそれらの会社は自社のユーザーを増やすことが第一の目的だろう。しかしながら、国内のゲーム業界全体がゲーム開発人口の増加を望む潮流にあり、筆者もそれを応援していきたい。


追記:(2013/01/31)
2012年12月より、プロ版のBISHAMONもBISHAMON Personalと同様、これまで開発・保守を行っていたマッチロックが販売を手がけることになった。