2012年3月1日木曜日

‘支払いたいだけ支払う’Pay What You Want :欧米のゲームの趣向


Octodad 2

ここ1年以上に渡り、日本国内外問わず、従来型のゲーム・ディベロッパーたちの経済状況はあまり良くないようだ。これは単なる不況の問題ではなく、ゲームプラットフォームがコンソールからパソコンやモバイルなどのソーシャルゲームへと移行したことに起因する。


新たな市場が開拓されたことでソーシャルゲームのディベロッパーやパブリッシャーが最大利益を生みだすなど、ゲーム市場は成長し続けているはいるものの、従来のゲーム会社は、業界にもたらされた新しい(低)価格モデルの競争に晒されているわけだ。

とはいえ、現状ソーシャルゲームは従来のコンソールゲームやPCゲームにクオリティの面ではるかに劣るのは事実である。しかしながら、モバイル等の技術革新はご存知の通り日進月歩であり、やがて追いつかれるのは時間の問題かもしれない。

そのような現状の中、ここ23年、欧米で一気に成熟したインディーズゲーム業界が新たな価格モデルであるPay What You Want(以下PWYW。支払いたい金額を支払うモデル)方式で小さな革命を始めているのをご存じだろうか。


Pay what you want(支払いたい金額を支払う)-全く新しい価格設定モデル

PWYWは、多くの場合、期間限定でプレイヤー自身にその価格を決定させ、その付け値でゲームを提供してしまう価格設定モデルである。時には最低価格、あるいは最高価格すら設定できるバリエーションがある。特定の場合において、より多く支払うことが、ソーシャルゲームのゲーム内の購入と類似した優位点が与えられる。つまり、さらに新しいステージやゲームが追加され、新たなコンテンツが増えるわけだ。

このPWYWは、通常の価格設定が持ち合わせている多くの欠点を取り除くことができる。

1.プレイの敷居を下げるとともに、万が一ゲームが期待以下だった場合に起こる“こんな高い買い物しなきゃよかった”という失望感から解放することができる。これは特に開発者に関する情報が不足しがちなインディーズゲームにとって価値がある。PWYWはゲームを試すきっかけを与え、もし気に入ってくれたなら、次回同じ開発者のゲームを買うときにはより高い価格で購入してくれる可能性が高くなる。

2.開発者サイドにとっては、PWYW方式を使用する事で、“適切な”価格の設定という極めて厄介な作業を省くことができる。より多くの人にゲームを提供することにもつながり、ディベロッパーはファンベースを拡大し、彼らとつながりを持ち、それが上手くいけば、彼らは自発的にゲームについて語るようになる。つまりは、価格設定ひとつで販売促進行動にもつながるというわけだ。

3.最後に、ゲーマーの道徳的な側面を少しばかり広げるという点にも触れておきたい。ユーザーに納得の行く価格設定をお願いすることで、ゲームのブランドとその実際の開発プロセスについて考えてくれるようになる。こうすることによって、自分たちのお気に入りのゲームの開発プロセスに対して真剣に悩み、自分ごとのようにゲーム開発を考えてくれるようにもなるだろう。単なるゲームファンから、ゲーム産業を(これまでの購買という枠を越えて)支えてくれるパートナーになりえるわけだ。

しかしながら、PWYW方式は決して万能のビジネスモデルではない。商品開発費が高額なものは、まずはそれを回収することを考えねばならない。かつ商品複製にあたって費用が掛かるようであれば、その回収も当然必要だ。よって、商品の開発・複製が比較的安価なゲームや音楽といったデジタル関係の商品に当てはまる。インディーズゲームにはうってつけというわけだ。

また、違法コピー問題にも当然これはパブリッシャーにとって大きな損失へとつながる。ほとんどのパブリッシャーは、最新の複雑なコピー防止システムのために大金を注ぎ込んで、この問題を解決しようとしている。しかし、莫大な金額と労力を費やしたところで、解読不可能なシステムというものは存在しえない。インディーズ・ディベロッパーの多くはゲームの違法コピーはもはや避けることはできないという認識に至っている。だから、対峙するのではなく、PWYWベースにすることでより多くの人に購入してプレイしてもらうことを考えているのだ。


長所-多大な利益をもたらす

もちろん企業によっては過度な期待は禁物と慎重に見るところもあるが、ほとんどのインディーズ・ディベロッパーはこのモデルのメリットを十分に認識している。PWYWは購買層のすそ野を広げることで、熾烈な価格競争が繰り広げられている市場においても経済的に成功し得ることが実際に多くの作品で証明されている。(例えば、Radioheadの“In Rainbows”!)

普通に考えれば、最低価格ばかりで購入されてしまいそうなものだが、欧米ではPWYWに支払いの一部を慈善活動に募金するシステムを組み込むことで、さらに大きな収益を上げることに成功している。単にゲームを購入する、ということのみならず社会的意義のために行なうことで、より高いお金を支払うようになるというのだ。

ただ、気をつけなければならないのは、ゲーマーにとっての理想的なシチュエーションは基本的にゲームのダウンロードに要するプロセスが「1回のクリックのみ」ということである。よりよい効果を求めて様々なシステムを付与するとしても、複雑なユーザー登録や二次的なダウンロードクライアントが必要になる、などしてしまっては、逆に潜在的な売上を追い払い、さらには口コミによる広がりさえ奪ってしまうことになりかねない。


西洋における(無料)ゲームの売上と共同サポート

PWYWは、多くの有名なインディーズゲーム会社によって積極的に活用されている。その先駆者は2D Boyであろう。1年に渡る、World of Gooのささやかな従来の固定販売額による売上の後、PWYW方式に転向し、わずか1週間でおよそ57000本を売り上げ、10万ドルもの収益を得た。1セントしか支払わない人もいたにはいたが、多くの人はゲームに1011ドルを支払った。その上、宣伝効果が波及しSteamWiiといった他のプラットフォームにおいても売上は向上したという。

また、PWYWの最も有名な事例は、Wolfire Studioのジェフ・ローゼンによって提案された、注目のディベロッパーによるゲームの特別パック、The Humble Indie Bundleであろう。10回目のHumble Bundleの販売は、45万ドル以上の収益と2,000ドル以上の最高特別拠出、80,000本以上となった。

以来、彼らのシステムは、ペースでPWYW方式におけるインディ系ゲームのセットが購入できるIndie Royalなどの様々なクローンを生みだし、それらは独自のさらなる発展を遂げている。そして、PWYWはついに『ゲーム開発の資金調達』を可能にした。

つまり、PWYWのサポートシステムをゲームの実際の開発に向けて、ユーザーが募金できる、というシステムだ。引換に、貢献レベル次第で、プレイヤーは開発終了後にゲームの完全版を受け取るだけでなく、どれだけ募金したかが反映された追加の報酬を受け取ることができる。

これらの報酬はディベロッパーによって設定され、よってオプションで多くの偏差があるが、プレイヤーはどの程度深く開発に携わるのか、あるいはどの報酬を受け取りたいのかを自由に選択できる。

これらの報酬はTシャツ、フィギュア、オリジナルゲーム設定、コスチュームや油絵といった限定/独占版のオリジナルグッズから、ゲーム中のクレジットへの表記、あるいはキャラクターの名称やストーリーの要素を決定するといったゲームにおいて使用される特定のコンテンツを共同製作する能力まで多岐にわたる。さらに最高額以上の募金をしたファンは誰でも開発チームと一緒に、無料で夕食を共にするといったケースもある。開発者が施せること、プレイヤーが施してもらいたいこと、に制限は特にない。それは各開発者、各ユーザーに委ねられている。クレジットへの表記なんて、ファンにとってはたまらない特典だろう!

欧米における最も有名なクラウドファンディングのサイトはKickstarter8-Bit FundingそしてIndie Gogoで、Kickstarterが一番成功している。そして、日本でもCampfireが(ゲームはまだ無いにせよ)同様の取り組みをスタートさせているし、インディーズPCゲーム配信サイトPLAYISMでは先日、海外人気作TRAUMAなどのPWYW方式を開始したばかりである。(手前味噌な話だが)


次世代の戦略とは?

PWYWと資産調達のムーブメントがある一方、この資金の集め方が長期にわたって実行可能なのか、開発に必要な費用を全て賄うのに十分な所得を生み出し続けられるものなのか、ということについては、もちろん大きな疑問符が立ちはだかっている。

何より、この方式はすでに異なるディベロッパーの間で模倣され続けており、一番肝心な報道価値、バイラルを生む効果が極めて低くなっている。今のトレンドの中で、ユーザーの心を掴むことは、PWYWだけでは困難になってきている……と結論付けるにはまだ早いだろうが、そういう方向に向かっていることは間違いない。

しかしながら、常に私たちを驚かせ続けてきたインディーズゲームである。きっとまたすぐにPWYWとは全く違ったさらなる魅力的な提案をしてくるだろうと私は確信している。