2011年10月24日月曜日

英->日のゲーム翻訳で最も多く目にする誤訳

海外ゲームの日本語版が発売されると、プレイヤーにより誤訳(Mistranslations)が発見され、インターネットのフォーラムなどを通じ てその誤訳の噂が広まる、といった光景は、昨今では珍しくありません。しかし、私がこれまで多くのゲームで発見してきたにもかかわらず、不思議とインター ネット上で指摘がなされていない誤訳があるのです。今回は、その誤訳に関して話をさせていただきたいと思います。

まず、あなたが英語のゲームを日本語に翻訳するとして、ゲーム中に以下の枠内のような画面があるとしましょう。

————————————————————————————–
STATS
Enemies Killed: 882
Items Unlocked: 65/100
Missions Completed: 37/50
Points Collected: 85,578,300
Time Played: 20:30:09
————————————————————————————–

上記は、海外ゲームでよくお目にかかる、”Stats”画面を模したものです。この画面のタイトルである”Stats”という英語、あなたなら何と訳しますか?

“Stats”は一見、”Status”の略語(abbreviation)であるように見えるかもしれませんが、実はこれ、”Status”では なく”Statistics”の略語です。”Statistics”を英和辞典で引いてみると、「統計」、「統計表」などの日本語訳が出てくると思いま す。”Stats”画面では、ゲーム中で獲得したポイント数や合計プレイ時間といった、ゲームプレイに関する「統計的なデータ(Statistics)」 を参照することができるのです。

しかし、日本語に翻訳された海外ゲームをプレイしていると、この”Stats”が「ステータス」と訳されているケースを非常に多く見かけます。日本 のゲームで「ステータス」画面というと、キャラクターの体力、攻撃力、所持アイテムといった情報を表示する画面を指すのが一般的であり、上の例のような画 面のことを「ステータス画面」とは、なかなか呼ばないはずです。このことは、Googleなどで「ステータス画面」と入れて画像検索をかければ一目瞭然で しょう。そのため、”Stats”画面の”Stats”が「ステータス」と訳されていると、日本人ゲーマーとしては、いささか違和感を覚えてしまいます。
ちなみに私自身が”Stats”を訳すときは、「プレイ記録」や「プレイデータ」、または「レコード」や「戦歴」といった日本語をあてることが多い です。その辺りの細かい言い回しは、”Stats”画面で表示されている項目、およびゲームの世界観などを考慮して決めるようにしています。

ただ、この”Stats”の問題は少々くせ者で、”Stats”を「ステータス」と訳しても問題ない場合というのもあるのです。例えば、下 の”Stats”画面で表示されているのは、キャラクターのレベル(Level)や体力(Health)といった情報であり、日本のゲームでいうところの 「ステータス画面」で表示される情報とまったく合致するのです。こういったケースでは、”Stats”を「ステータス」と訳しても何ら問題はありません。 おそらく、”Stats”を”Status”の略語だと勘違いしてしまうゲーム翻訳家が多いのは、下のような”Stats”画面も存在することが原因なの ではないでしょうか。


“Stats”を「ステータス」と訳してしまうミスは、ゲーム翻訳において、私が最も多く見かけてきた誤訳の一つです。日本でも有名な海外ゲーム、例えば10万本以上出荷されるような人気タイトルですら、このミスを見かけることがあります。

…ただ、正直に告白すると、私自身、駆け出しの頃にこの誤訳を犯してしまったことがあるのです。そのときは途中で気づき修正したので、何とか事なきを得ましたが…。そん
なこともあったため、他のゲーム翻訳家の方々にも注意喚起しておこう、などと思い、こうして筆を執らせていただいた次第であります。

——————————
筆者プロフィール
羽無エラー(はねなしえらー)

ゲームソフトの翻訳、娯楽スポーツ番組の字幕翻訳、
ゲームニュース記事の翻訳、コラムの執筆など、
多方面で活動中のエンタメ翻訳家。
和訳/英訳合わせ、約20本のゲームソフトの翻訳に携わる。
——————————

翻訳業者 対 個人翻訳者


当サイトをオープンしてから、翻訳の依頼を翻訳会社に発注した方が良いのか、それとも個人の翻訳者にお願いすべきか、聞かれる事が多いです。そこで、翻訳者を取りまとめている翻訳会社のプロジェクトマネージャーである私が、自分の意見をここで述べたいと思います。
翻訳会社の本来あるべき仕事とは、お客様から発注されるテキストを翻訳するだけではなく、その案件を全体的に管理し、品質の高い納品物を納期内にお客様に提供することです。もちろん、翻訳会社は、その案件に相応しい翻訳者を選択する事を期待されるし、さらに、納品の前に第三者により品質チェック、レイアウトの調整など、行わなければいけません。

但し、近年、『本来あるべき姿』は、現実とは違ったものです。インターネットの普及により、法人化した小さいエージェントが増えて、結果的に、業界の標準単価は半分ぐらいに下がりました。それに対抗するために、ほとんどの翻訳会社は競って単価を下げてしまい、そのおかげで、本来やるべき品質チェックや案件管理は出来なくなっています。

その為、個人のお客様にとっては、手数料をとる以外に何もしない翻訳エージェントよりは、良さそうな翻訳者を選んで、直接仕事を依頼する方が良くなりました。Active Gaming Mediaはもちろんですが、ほかにも、素晴らしい個人の翻訳者が登録されているサイトは、沢山あります。

しかし、貴方が複数言語を一度に翻訳しないといけない法人様であれば、何人もの翻訳者とメールのやり取りなど行うのは、面倒な事でしょう。そのような場合は、翻訳会社に案件を任せたほうが良いかもしれません。但し、必ず、細心の注意を払って翻訳会社を選びましょう。確認していただきたい点としては:

1.会社の中でネイティブの翻訳者がいるのかどうか。

2.過去にこれらの言語の翻訳経験があるのかどうか。ほとんどの翻訳者のホームページを見ると、『50言語対応可能』などと書いてあったりしますが、大体は事実と異なります。発注を受けてから必死に翻訳者を探すエージェントが多く、私も、翻訳者だった時、まともなトライアルなんてさせられた事がありません。

3.他社との価格を比較しましょう。

4.タイプミスや翻訳漏れがある場合は、10%値引きしてもらうなど、なんらかの条件を付けましょう。

但し、一番重要な判断ポイントは、こちらです:翻訳コーディネーターの対応。日本の営業担当者の対応は海外に比べると優れていますが、基本的に良いコーディネーターとは、原稿を受け取るだけではなく、幅広い付属資料、用語集なども請求してくるはずです。品質に対する熱意を感じさせるような人であれば、それは間違いなく良いプロジェクトマネージャーでしょう。

従って、個人の翻訳者にも翻訳会社にも長所と短所はありますが、翻訳案件を依頼される際に一番大事なのは、その案件の内容にきちんとあった翻訳者や翻訳会社を選ぶことです。