2011年10月21日金曜日

翻訳のコンビニ(著:株式会社アクティブゲーミングメディア)

2000年から日本国内での翻訳会社はキノコのように増え、2009年現在は4000社を超えると言われております。今回は日本の中小翻訳会社の正体に迫りたいと思います。

私は英語が少々話せます → フリーランス翻訳者として3年間働いてかなり忙しかった → 翻訳会社から受注する翻訳案件の単価が低すぎるので、個人営業のためのホームページを作りました → 信頼度を上げるために親戚と一緒に有限会社を設立しました

上記のような流れで翻訳業界に入った翻訳会社は少なくないでしょう。実は、日本には限らず、欧州や欧米でも、このように会社を作った例が数多く見られます。悲観的な事は言いたくないのですが、翻訳市場自体はそれ程大きくなっていないのに、ここ10年でその市場の中で生活しようとしている人の数は、500%以上に増えました。

原因は、様々です:

1.インターネットの普及。インターネットのお陰で自宅から簡単に作業が出来るようになり、『パートタイムで翻訳でもしようかな』と考える人が増えた。

2.ソフトウェアの発達。パソコン、携帯、ナビゲーション・システム・・・今は、15年前と比べると考えられない程数多くのソフトウェアが毎日のように発売されており、それらが多言語にローカライズされている。

3.世界不況。ここ一年間、全世界で失業した人が多い。その中で、2言語以上話せる多くの人が、繋ぎの仕事を探すため。

しかしながら、これらの人々は『翻訳者になりたいので、文献学を勉強しよう』、『翻訳支援ソフトのコースを受けよう』などと思った人ではない。やむを得ない状態に陥り、自分の言語能力を活かして簡単にお金を稼ごうと考える方が多い。

もちろん、この中で最終的にフリーランス翻訳者として素晴らしいキャリアを築き上げる翻訳者もいるし、エージェントになって、大きく翻訳業界に貢献する人もいます。しかし、全体的に考えると、これらの現象で翻訳マーケットの全体的なレベルは、ここ数年で圧倒的に下がったと思います。推測ですが理由は下記の通りです:

1.中小企業の多くは、品質を犠牲にして安すぎる単価で仕事を請ける。一人の翻訳者が一日2000文字まで翻訳出来るとしたら、単価3円の翻訳で、一日あたり稼げるのは6000円ほどです。従って、3円で翻訳を請ける翻訳者は、必死に5000文字ぐらい訳そうとします。結果的に、品質には問題が出てしまいます。

2.チェックなしの納品。プルーフリーダーに支払う予算がないので、翻訳者から納品された翻訳をそのまま納品するエージェントが多い。

3.翻訳専門家がいなくなっている。一昔前は、翻訳の中でも自分は絶対手を出してはいけない分野が多かったが、最近は『仕事なら何でも請けたい』と言う翻訳者が多い。

4.お客様第一。もちろん、これは素晴らしい事ではありますが、お客様を満足させるために無理な納期で仕事を請けてしまうエージェントが多い。

私が大学生の時に、壁に古代ラテン語でこの文章が書いてありました:『翻訳とは、言葉の職人です』
しかし、社会人になって翻訳会社に勤めると、職人の仕事よりもコンビニエンスストア的なサービスをやっているような感じがして仕方がありません。

最近、日本の大手メーカーの商品の英語マニュアルを読んでも、品質は本当に低いので、その翻訳作業は『どこかの誰かが一文字4円で翻訳したんだろうな』と思う時があります。

しかし、翻訳の最終的な目標は、お金ではなく、コミュニケーションそのものです。
コンビニのチェーン店の様な経済効果を狙う業界ではなく、商品のクオリティーの事をもう少し真剣に考える翻訳エージェントが増えたらと思います。

unlock(アンロック)を翻訳(ホンヤック)

皆さま、初めまして。今回こちらのメディア・センターでコラムを連載させていただくことになった、日本人ゲーム翻訳者の羽無エラーと申します。拙コ ラムでは、毎回、ビデオゲームに関連するテーマを何か一つ取り上げ、そのテーマについて、ゲーム翻訳者の一人として、またはゲーム業界人の端くれとして、 もしくは税金を納めている東京都民の一人として(?)、簡単にお話をさせていただく予定でおります。平たく言えば、ゲーム画面に向かって心に移りゆくこと を自由に書き綴るコラム、ということです。

というわけで早速、第一回のテーマである”unlock(アンロック)”についての話をしようと思います。”unlock”とは海外のゲーム内で目 にすることが多い英語であり、隠しキャラクターや隠しアイテムといった、ゲーム内で最初は使えなかったものを、特定の条件を満たすことにより「使える状態 にする」という意味で用いられる動詞です。海外ゲームが日本にローカライズされる際、”unlock”は「解除する」と直訳されることもあれば、「アン ロックする」とカタカナ英語に訳されることもあります。
前述のような文脈で使われる”unlock”は、ほんの一昔前までは海外ゲームの中でもあまりお目にかかることがなかったものの、Xbox 360のシステムメッセージで用いられて以来、徐々にゲームユーザーの間に浸透してきました。ここでいうXbox 360のシステムメッセージとは、ご存知の方も多いと思いますが、実績の取得時に表示される下記メッセージのことです。

Achievement unlocked

(実績のロックが解除されました)

上記のメッセージで”unlock”が使われて以来、Xbox 360だけでなくほかのプラットフォームのタイトル内でも、同様の文脈で”unlock”が用いられることが増えてきました。そしてそういったタイトルが 日本にローカライズされる際もやはり、「解除する」や「アンロックする」といった訳語を充てられることが多いと思います。その影響もあってか、今や日本で も、コアなユーザーを中心に「解除する」、「アンロックする」という言葉が広まってきています。

しかし私個人は、このような流れを面白いと思いつつも、”unlock”を「解除する」や「アンロックする」と安易に直訳するのは極力避けるようにしています。

まず、「隠し要素を出現させる」という意味の「解除する」は、日本のゲームの中で使われる言葉としては、さほど一般的でないように思えます。「アン ロックする」は言わずもがな、です。先ほど、「日本でも広まってきている」と書きましたが、それはあくまでユーザー間の雑談や海外ゲームの日本語版での話 であり、日本で作られた純和製ゲーム、特にコンシューマーゲームでは、この意味の「解除する」という表現はまだそれほど使われていないのではないでしょう か。意味が伝わるのであれば「解除する」や「アンロックする」を使っても差し支えないだろうと思う一方、一般的な和製ゲームの中でほとんど使われていない 表現を海外ゲームのローカライズ版でだけ用いるのは、若干はばかられる気がするのです。

それは私が、「ゲーム翻訳の理想は、海外ゲームのテキストを純和製ゲームのそれと見間違えるくらい自然な日本語に翻訳することだ」と考えているから だと思います。そんな、なんともチンケな自尊心が、”unlock”を「解除する」と訳してEnterキーを叩こうとする私の指に待ったをかけてしまうの です。

また、もう一つ理由があります。”unlock”という英単語が英語のネイティブ・スピーカーにとってごく容易なものであるのに対し、「解除」とい う日本語は日本の若いユーザー、とりわけ小学生くらいのユーザーにとっては、少し堅苦しい言葉であるように思えるのです。特に小学校低学年のユーザーの場 合、そもそも「解除」という日本語を知らない恐れすらあります。実際、広いユーザー層をターゲットに据えているタイトルで「解除」という言葉を使ったら、 監修を受けた後に違う表現に直されていた経験もあります。「じゃあお前も使ったことあるんじゃん」というツッコミはご勘弁を(笑)。

このような理由から、コアユーザー向けのタイトルでない限りは、私は”unlock”を「解除する」と訳すことはなるべく避けるようにしています。 たとえば、隠しキャラクターが出現する際の”unlock”であれば「~が使えるようになりました!(~ unlocked!)」と訳したり、隠しモードが出現する際の”unlock”であれば「~モードが遊べるようになりました!」と訳すなど、出現する隠し 要素の種類によって訳語を使い分けるようにしています。

ただ、あと数年もすれば、「隠し要素を出現させる」という意味の「解除する」が日本のゲームの中でも普通に使われるようになるかもしません。言葉は 時代とともに変わりゆくもので、英語の直訳的な表現がそのまま日本語として根付くケースもあるからです。たとえば「注意を払う」という表現。これはもとも と日本語の発想から生まれた表現ではなく、英語の”pay attention”を直訳したものであると言われています。このような欧米語の直訳表現を言語学の世界では「欧文脈」と呼ぶそうですが、この「注意を払 う」も現在では自然な日本語表現としてすっかり定着しています。

ゲーム業界は言語の世界と同等かそれ以上に目まぐるしいスピードで変化を遂げています。そのため、欧文脈の「注意を払う」のよう に、”unlock”の直訳語である「解除する」という表現が日本のゲーム業界で完全に根を下ろし、多くの純和製ゲームの中で使われる日が近いうちにやっ て来る可能性もあります。もしそうなったら、そのような表現を欧文脈ならぬ「洋ゲー文脈」と命名し、論文の一つでも書くかもしれません(笑)。その時が来 るまでは、翻訳者としてのちっぽけなプライドを守りながら、”unlock”を四苦八苦して訳し分ける日々を送り続けようと思っています。

最後に、以下の画像をご覧に入れて、第一回のコラムを締めくくりたいと思います。ご一読いただきありがとうございました。

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筆者プロフィール
羽無エラー(はねなしえらー)
ゲームソフトの翻訳、娯楽スポーツ番組の字幕翻訳、
ゲームニュース記事の翻訳、コラムの執筆など、
多方面で活動中のエンタメ翻訳家。
和訳/英訳合わせ、約20本のゲームソフトの翻訳に携わる。
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