2011年12月14日水曜日

ネイティブ翻訳者とそうでない翻訳者 ― 「あなたはどっち?!」


私は日本語のネイティブではありません。(つまり、日本語が母国語ではないということです)
 
私はアメリカで生まれ育ち、来日してからもう10年以上経ちます。
長年に渡るいわゆる日本語漬けによって日本語はそこそこでき、典型的な「外人なまり」があまりない(とたまに言われる)ので、普通に話していると日本人と間違えられることもよくあります。思ったことをサラッと日本語で言えるし、日本語を聞いてて普通に理解もできます。自分で言うのはなんですが、和英翻訳もそこそこ出来るし、外国人の中ではどちらかと言うと日本語が上手い方だと思います。でも、決してネイティブではありません。こういった文書になるとやっぱり違和感が多少あると思うので、本文書を読んで頂ければすぐに分かると思います。
 
日本語ができても、そして和英翻訳ができても、私はあくまでも英語ネイティブのアメリカ人なのです。だからお金をもらう仕事としての「英和翻訳」は絶対にやりません。
友人などに軽く頼まれて簡単な英文を日本語に訳したり、「意味さえ通じれば」というレベルの和英・英和通訳したりしますが、プロの翻訳者としてのプライドもありますし「この訳は100%あってます。」と自信を持って言えないとお客様に失礼ですし、迷惑をかけてしまうことになります。駄目なモノを出してしまうと会社自体のイメージも悪くなるので自分の上司や同僚にも悪いと思います。
 
「自分は偉いと思ってる」という風に聞こえるかもしれないですが、私的には以下がプロとしての2ルールだと思います:「自信を持ってできる!と言えない仕事はしない」ということと、「自分の限度をちゃんと承知する」こと。もちろん他にもありますが、こういったプロのルールを守れなければプロ失格だと思います。残念なことに、最近そうでない翻訳者も大勢いるように思われます……
 
私は翻訳者でもありますが、今は翻訳会社のプロジェクト・マネージャーをメインとして仕事をしています。だから色々な翻訳者と触れ合ったり、色々な言語ペアの案件を預かったりします。簡単に言えば、翻訳案件は会社の商品と一緒なので、お客様に納品する時にちゃんとしたモノを出したいに決まっています。そのため、翻訳者を探す時、まず第一条件は「ターゲット言語のネイティブであること」です。でも色々な翻訳者のプロフィールを見ていると、こういう感じのものがよく見られます:

「言語ペア:

日本語→英語・英語→日本語
中国語→英語・英語→中国語
中国語→日本語・日本語→中国語
中国語→韓国語……」

……などなど。しかもこんな多言語ができる上に、「どれもネイティブ(もしくは「ネイティブ・レベル」)だ」と言い張る方も結構多くいます。例えば、日本人とアメリカ人の親を持ち、完全にバイリンガルな環境で育ったというのであれば、これは理解できます。英語・日本語どちらともネイティブ・レベルであることは全然有り得るし、認められます。でも、一人の人で、例えば3、4、5ヶ国語わかる、出来ると言っても、その全言語のネイティブであるということはまず有り得ないと思います。物凄く上手いかもわかりませんが、どれも本当に「ネイティブと全く一緒」であるとは考えにくい、というか考えられません。
 
こういった方のプロフィールを見て、「自分でネイティブと言っていのでネイティブなんだろうな」と信じ込んでしまい、大失敗したことは何度かありました。とある言語ペアの翻訳を依頼し、返ってきたモノがめちゃくちゃだったり、納期まで間もないのに「ごめん、やっぱり出来ない」と急に断られたり……こういうシチュエーションはかなり困ります。駄目なモノを提出したとして後から怒られる私も困るし、イメージダウンする自分の会社も、また、修正の依頼をせざるを得ないお客様も困りますが、(言い方が少しきついかも知れませんが)簡単に言えばウソをついて儲けようとした翻訳者も、後から仕事をふってもらえなくなることで、その翻訳者自身も困ることになるのです。

ここで翻訳者の皆様に一つお願いしたいと思います:
とある言語において真にネイティブでなければ―例え自分で「ネイティブ*レベル*」だと思っているとしても―「自分はネイティブです」と言い張るのは辞めて下さい。

「本当のネイティブ」と「ネイティブ*レベル*」はやっぱり違うし、言葉の微妙なニュアンスや、わずかにしか変わらない言い回しの違いなどは、本当にネイティブでないと、完璧に解るとは言えないものも多くあると思います。なので、プロの翻訳者として活躍したいと思ってなく、ちょっとしたアルバイト感覚で翻訳をやっている人も、「プロ」とはいえプロとしてのプライドは別に持ってないという人も、生活が100%翻訳にかかっているという人は沢山います。そしてその中に、私みたいにプロジェクト・マネージャーとして生活が「他人の翻訳」にかかっている人も多くいます。なので、「ネイティブです」と言い張って完全にネイティブ・レベル以下のモノを出してしまうと、本人は別に良くても、本当に困る人もいるということを理解して頂きたいと思います。
 
翻訳納品物の品質が悪ければ悪いほど、当然会社の利益も減り、翻訳会社の利益が減れば減るほど、翻訳者に支払える金額も下がります。支払える金額が下がれば、雇える翻訳者のレベルも下がり、さらに駄目なモノを出し続けることになってしまいます。そうなると、結局終わりのないサイクルになってしまい、翻訳業界はいつまで経っても回復できなくなってしまうことになります。

これを避けるためには、皆さんに下記の2つのルールを守って頂くしかないと思います:「自信を持ってできる!と言えない仕事はしない」、そして「自分の限度をちゃんと承知する」ということは本当に大事です。ルールをみんなで正しく守り、頑張って翻訳業界を良くしていきましょう。それができれば皆が助かるので、ご自分の仕事用プロフィールを提出する前にちょっと考えてみて下さい。

一翻訳者からのちょっとしたお願いでした。よろしくお願い致します。

マーティン・ヘドリックス