2011年11月11日金曜日

東京ゲームショウ-世界における地位


日本の秋と言えば紅葉だが、ゲームファンにとっては東京ゲームショウ(TGS)の季節であろう。今年のTGSでは、大きく2つのトピックスがあった。
ひとつは、来場者数が222,668人と、なんと過去最高の記録を叩き出したことだ。今の日本のゲーム業界は少し元気がないと言われてきたが、これだけの人々が集まるということは、やはりまだまだ底力があるということだろう。ちなみに、ヨーロッパ最大のゲームイベントであるGamescomは来場者275,000人ほどであり、TGSが世界でも有数の展示会であることがおわかりいただけるだろう。

そしてもうひとつは(こちらの方がより重要なのだが)、過去のTGSに比べて、サプライズの少ない退屈なものとなってしまったことだ。ニュースがないのがニュース、というのも寂しい話だが、事実、MH3Gの発表(TGS直前での発表だったが)が世間を賑わせたくらいだろう。実はTGSの注目度は、世界的に見ても年々徐々に減少しているのである。
この原因は一体どこにあるのだろうか。どうやらTGSあるいはパブリッシャー、デベロッパーだけの問題だけではないようだ。

 


展示内容の変化

さて、東京ゲームショウ過去数年の推移を見れば、家庭用テレビゲームの市場が縮小していっているのがよくわかるだろう。大規模なブースの数は年々減少しており、その代わりにソーシャル系をはじめとした小規模の出展が増加しているのだ。

考えてみれば、日本のゲーム開発会社で10年以上前から残っているゲーム開発企業は極めて少ない。正確に言えば、合併せずに残っている企業は、極めて少ない。例えば、スクウェア・エニックス、バンダイナムコ、さらにはコーエーテクモなど、多くの企業が合併しているのだ。無論、小・中規模のデベロッパーでは大規模なブースを出すことはなかなかできないし、この状況では大規模ブース数が減るのも当然である。

その一方で、TGSに新顔が登場した。今回、巨大なブースを構えたGREEである。彼らは間違いなく日本のソーシャルゲームをけん引する、今最も注目を集める企業のひとつであろう。彼らは豪華で美しいブースを構えるだけではなく、コンパニオンの大群を連れてTGSにやってきた。メディアに取り上げられる術、来場者のプロファイルを研究し、みごとにその興味と関心を集めた。GREEの現在の好調ぶりがそのまま表れたかのようなブースだった。

こうしてみると、ソーシャルゲームやスマートフォン、タブレット、オンライゲームに、家庭用ゲーム機の居場所はすっかり奪われていくかのようにも思えるが、家庭用ゲーム機がまったく終わってしまうわけではない。それどころか、PS Vitaのソフトなど、大作ゲームのプレイアブル機の前には、ほんのわずかな時間でもプレイしたいと願う人々の長蛇の列ができていたのだから。

確かに展示内容は変化しつつあるが、これまでのゲームの魅力がなくなってしまったわけでは決してない。海外メディアも、GREEを取材しに来たのではなく、PS Vitaを見に来たのだろう。さて、ここで問題にしたいのは、このTGS開幕時点で、すでにVitaのほぼすべての機能・性能が明らかになってしまっていることだ。TGSでは、GamescomE3で発表されたことを繰り返しアナウンスしていることに過ぎない。世界市場を視野にした作品ほど、TGSでは新しいニュースが発表されない、ということこそが問題なのだ。

展示会の増加,、そしてニュースの減少

TGSはかつて、E3と双璧を成す、世界中の注目を集めるゲーム展示会であった。パブリッシャー、デベロッパーともに、そのふたつに合わせて大作ゲームを生み出し、発表する準備を進めていたのだ。

しかし、現在ではゲームイベントの数も増え、あらゆる国でそれぞれ(規模は小さくとも)独自のイベントを行っている。もっといえば、地域ごとにも行われ、ジャンルごとでさえ行われているものはある。もはや毎週のように新作ゲームの情報がリリースされる場が生まれたのだ。

こうなってくると、どのイベントで発表するか、意見も分かれるようになる。E3がいいという者もいれば、Gamescomがいいという者もいるだろう。いや、TGSだ、PAXだ、いやいや、GDCだろう……と。例えば、イギリスのインディーズクリエイターであれば、大手パブリッシャーが出展を決めている展示会は外して、ロンドンゲームフェスティバルやIGFに出るというのもいいだろう。皆が皆、大きなフェスティバルに出るだけの体力があるわけではないのだから、どのタイミングで、どの展示会で、発表するのか、それぞれがそれぞれの判断で選べばいいのだ。

当然、出来るだけ数多くの展示会に出る、という判断もあるだろう。しかし、一度出れば、そこで発表した情報は、メディアはもちろんのこと、来場者たちが情報を次々とオンライン上に書き込み、そのニュースは一気に拡散していく。新たなニュースはあっという間にそれは周知の事実となり、ニュースとしての価値を失ってしまう。そうなると、次の展示会には、新たなトレーラー、あるいはスクリーンショットを発信しなければならない。

しかし、発信するニュースにも限界がある。新しい武器、新しいキャラクター、新しいモンスター、新しい装備などの情報であれば、その都度発信することはできるだろう。だが、その作品が既存の作品と比べて何が違うのか、どういった新しい遊びがあるのか、ということこそが作品にとってのニュースである。多くの展示会に出たとしても、価値の小さなニュースを発信しているだけでは、単なる労力のムダである。出展する展示会をある程度絞られるのは当然のことだろう。

そうなると、実は9月に行われるTGSは、世界的にみると、年間最後の大規模展示会なのだ。新作を発表する機会としてはあまりにも遅く、世界を市場に考えた作品の場合、E3Gamescomで発表してしまえば、TGSはもういいや、となってしまうのだ。

また、近年中国市場が大きく成長していることもあり、日本で大作ゲームを発表するだけの価値がこれまでほどなくなってしまった、というのが正直なところだ。事実、世界的にヒット作を生む海外企業がTGSでわざわざ発表することはまれである。EATGSに来ることは、今後まずないだろう。

もちろん、ゲームファンにとっても業界にとっても、多くの展示会が開催されるのは非常に喜ばしいことではあるが、その増加こそが作品をPRする場所としてのTGSの地位を落としてしまったのである。

新たな潮流

さて、そんなTGSだが、世界からの注目を集める、新たな価値が芽生えかけている。それは世界中の強烈なカメラの視線を集めた、日本の美しいコスプレイヤーやコンパニオンさん…、ではない(それもなかなかの注目度であったが…)。ビジネスデイの二日目に開催された、センス・オブ・ワンダーナイトである。

これは、見た瞬間、コンセプトを聞いた瞬間に、誰もがはっと、自分の世界が何か変わるような感覚=センス・オブ・ワンダーを引き起こすようなゲームのアイデアを発掘するための取組で、今回で4回目を迎えた。IGF等に出展されているものもあるが、コアなゲームファンはともかくとして、一般のユーザーにはまだまだ認知度が低い、いわゆるインディーズ作品に触れられる貴重なイベントである。小粒ながらクオリティの高い作品が全世界から集まり、その参加数もレベルも年々高まっている。今年は78ものタイトルが集まった。その中からプレゼンテーション参加作品として10作が選出されるのであるが、そのうち6作品が海外の作品である。世界のインディーズクリエイターがこのイベントを心待ちにしている、と言っても過言ではあるまい。

各作品の詳細なプレゼン内容やレビューについては他の記事、あるいはサイトに譲るとして、国内外の作品問わず10作品がプレゼンされると、会場の至るところから感嘆の声がもれた。ARや自動生成プログラム、Kinectなど、様々な最新技術を盛り込んだもの、あるいはまったく新しい遊びを提案するようなものと、いずれも趣向の凝らされた革新的な作品ばかりである。

何より、ここには作品の規模、パブリッシャーの規模に関わらず、ゲーム本来の面白さ、楽しさにまつわるたくさんの「ニュース」が詰まっている。海外からの取材もかなり多く、こうした試みがゲーム大国日本で行われることの意義は極めて大きいと感じられる。また、今年は東日本大震災復興を願う福島Game Jamの模様が紹介されるなど、ゲームの新たな可能性を切り拓こうとする人々が集う、非常に貴重な場でもある。

来年以降、ゲームファンの皆様にはTGSに出展する各企業ブースはもちろんのこと、新しいゲーム作品に出会えるセンス・オブ・ワンダーナイトにも、ぜひご注目いただきたい。そして、ここから新たな才能が次々と羽ばたいていくことを願っている。