2011年10月21日金曜日

unlock(アンロック)を翻訳(ホンヤック)

皆さま、初めまして。今回こちらのメディア・センターでコラムを連載させていただくことになった、日本人ゲーム翻訳者の羽無エラーと申します。拙コ ラムでは、毎回、ビデオゲームに関連するテーマを何か一つ取り上げ、そのテーマについて、ゲーム翻訳者の一人として、またはゲーム業界人の端くれとして、 もしくは税金を納めている東京都民の一人として(?)、簡単にお話をさせていただく予定でおります。平たく言えば、ゲーム画面に向かって心に移りゆくこと を自由に書き綴るコラム、ということです。

というわけで早速、第一回のテーマである”unlock(アンロック)”についての話をしようと思います。”unlock”とは海外のゲーム内で目 にすることが多い英語であり、隠しキャラクターや隠しアイテムといった、ゲーム内で最初は使えなかったものを、特定の条件を満たすことにより「使える状態 にする」という意味で用いられる動詞です。海外ゲームが日本にローカライズされる際、”unlock”は「解除する」と直訳されることもあれば、「アン ロックする」とカタカナ英語に訳されることもあります。
前述のような文脈で使われる”unlock”は、ほんの一昔前までは海外ゲームの中でもあまりお目にかかることがなかったものの、Xbox 360のシステムメッセージで用いられて以来、徐々にゲームユーザーの間に浸透してきました。ここでいうXbox 360のシステムメッセージとは、ご存知の方も多いと思いますが、実績の取得時に表示される下記メッセージのことです。

Achievement unlocked

(実績のロックが解除されました)

上記のメッセージで”unlock”が使われて以来、Xbox 360だけでなくほかのプラットフォームのタイトル内でも、同様の文脈で”unlock”が用いられることが増えてきました。そしてそういったタイトルが 日本にローカライズされる際もやはり、「解除する」や「アンロックする」といった訳語を充てられることが多いと思います。その影響もあってか、今や日本で も、コアなユーザーを中心に「解除する」、「アンロックする」という言葉が広まってきています。

しかし私個人は、このような流れを面白いと思いつつも、”unlock”を「解除する」や「アンロックする」と安易に直訳するのは極力避けるようにしています。

まず、「隠し要素を出現させる」という意味の「解除する」は、日本のゲームの中で使われる言葉としては、さほど一般的でないように思えます。「アン ロックする」は言わずもがな、です。先ほど、「日本でも広まってきている」と書きましたが、それはあくまでユーザー間の雑談や海外ゲームの日本語版での話 であり、日本で作られた純和製ゲーム、特にコンシューマーゲームでは、この意味の「解除する」という表現はまだそれほど使われていないのではないでしょう か。意味が伝わるのであれば「解除する」や「アンロックする」を使っても差し支えないだろうと思う一方、一般的な和製ゲームの中でほとんど使われていない 表現を海外ゲームのローカライズ版でだけ用いるのは、若干はばかられる気がするのです。

それは私が、「ゲーム翻訳の理想は、海外ゲームのテキストを純和製ゲームのそれと見間違えるくらい自然な日本語に翻訳することだ」と考えているから だと思います。そんな、なんともチンケな自尊心が、”unlock”を「解除する」と訳してEnterキーを叩こうとする私の指に待ったをかけてしまうの です。

また、もう一つ理由があります。”unlock”という英単語が英語のネイティブ・スピーカーにとってごく容易なものであるのに対し、「解除」とい う日本語は日本の若いユーザー、とりわけ小学生くらいのユーザーにとっては、少し堅苦しい言葉であるように思えるのです。特に小学校低学年のユーザーの場 合、そもそも「解除」という日本語を知らない恐れすらあります。実際、広いユーザー層をターゲットに据えているタイトルで「解除」という言葉を使ったら、 監修を受けた後に違う表現に直されていた経験もあります。「じゃあお前も使ったことあるんじゃん」というツッコミはご勘弁を(笑)。

このような理由から、コアユーザー向けのタイトルでない限りは、私は”unlock”を「解除する」と訳すことはなるべく避けるようにしています。 たとえば、隠しキャラクターが出現する際の”unlock”であれば「~が使えるようになりました!(~ unlocked!)」と訳したり、隠しモードが出現する際の”unlock”であれば「~モードが遊べるようになりました!」と訳すなど、出現する隠し 要素の種類によって訳語を使い分けるようにしています。

ただ、あと数年もすれば、「隠し要素を出現させる」という意味の「解除する」が日本のゲームの中でも普通に使われるようになるかもしません。言葉は 時代とともに変わりゆくもので、英語の直訳的な表現がそのまま日本語として根付くケースもあるからです。たとえば「注意を払う」という表現。これはもとも と日本語の発想から生まれた表現ではなく、英語の”pay attention”を直訳したものであると言われています。このような欧米語の直訳表現を言語学の世界では「欧文脈」と呼ぶそうですが、この「注意を払 う」も現在では自然な日本語表現としてすっかり定着しています。

ゲーム業界は言語の世界と同等かそれ以上に目まぐるしいスピードで変化を遂げています。そのため、欧文脈の「注意を払う」のよう に、”unlock”の直訳語である「解除する」という表現が日本のゲーム業界で完全に根を下ろし、多くの純和製ゲームの中で使われる日が近いうちにやっ て来る可能性もあります。もしそうなったら、そのような表現を欧文脈ならぬ「洋ゲー文脈」と命名し、論文の一つでも書くかもしれません(笑)。その時が来 るまでは、翻訳者としてのちっぽけなプライドを守りながら、”unlock”を四苦八苦して訳し分ける日々を送り続けようと思っています。

最後に、以下の画像をご覧に入れて、第一回のコラムを締めくくりたいと思います。ご一読いただきありがとうございました。

column1_image.bmp

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筆者プロフィール
羽無エラー(はねなしえらー)
ゲームソフトの翻訳、娯楽スポーツ番組の字幕翻訳、
ゲームニュース記事の翻訳、コラムの執筆など、
多方面で活動中のエンタメ翻訳家。
和訳/英訳合わせ、約20本のゲームソフトの翻訳に携わる。
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